東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
孫惣谷のカツラ 1 
幹周  7.50m      樹高  35m       標高  970m 
 
 
 日原地区の谷を大まかに二つに分けると、日原川(日原本谷)水系と小川谷水系になる。その二つの谷に、山々の幾筋もの小さな谷から清らかな水が流れ込むが、孫惣谷は日原水系の最も大きな支谷といえよう。ここは残念ながら、上流部に大掛かりな石灰岩の採掘場があり、自然と開発のせめぎ合いのような場所でもある。しかし、この谷の残された自然には、人知れず数百年を生きてきた巨樹も数多く、あながち日原の秘境といえなくもない。

 このカツラも、一般の人には殆ど知られてはいないが、見応えのある樹形をした一本である。「日原川とガニ沢出合いのカツラ」と同じように、岩の上に落ちた種からこのような巨樹に成長するまでに、やはり数百年は要したであろう。ただ、このカツラは殆ど痛みも無く、岩から降ろした太い根がみなぎる生命力を見せつけている。集落の近くにあれば、間違いなく「倉沢のヒノキ」「金岱山のミズナラ」並みの人気を誇ったことだろう。

 ただこのカツラのある近辺は、大自然に浸れる環境とは程遠い。50mほど上流にはコンクリートの堰堤が築かれ、さらに上流に進むほどに採掘により削り取られた山肌が痛々しい。時には発破の音が鳴り響き、その後に砕けた岩が転がり落ちる音まで聞こえてくる。ここ数十年のあまりの急激な環境の変化は、カツラにとってみてもけして心休まることはなかったのではないだろうか。

 かつて、日原鍾乳洞が修験道の本宮であった頃、孫惣谷にも蔵王権現として祀られた「立岩」という巨岩があった。昭和に入り、留まることを知らない開発の波は、その昔に神であり仏でもあった立岩をも粉砕してしまった。孫惣谷に今残るのは、立岩前にあった御供所の小さな祠のみである。
 
 撮影日

 上  2003年  4月29日

 下  2000年 12月26日


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