巨樹と呼ばれるようになった木には、幹の内部が空洞となっているものが多い。日原でも金岱山のミズナラや熊宿のトチノキ、名栗沢のネジリモミなどのように外観から分かるものもあれば、倉沢のヒノキなどは見た目には分からなくても、樹木の専門家に言わせると中心部は洞なのだそうだ。ただ、洞があるから木は不健康というものではなく、樹皮に傷みがなく葉を多く繁らせていれば、概ねその木は健康を保っているようである。
しかしこれが、カツラやイヌブナの巨樹となると話がちょっと違ってくる。カツラやイヌブナは、単木で巨樹になることは稀で、主幹の周りから孫生(ヒコバエ)が成長し、その集合した形が巨樹の姿となる。そのために最初に育った主幹は、孫生が成長するにつれてその役割を終えて朽ち果てる場合が多い。つまり、洞にならない代わりに主幹が失われ、変わりに孫生が同じカツラとしての生命を維持していくのであろう。
賀老小滝のカツラはご覧の通り、朽ちた主幹の基部の周りに孫生が張り付いたように成長している。もともと立派な主幹があっただけに朽ち果てたその姿は無惨な印象を与えるが、カツラの巨樹としてはやや孫生が細いという以外に心配することは無いように思う。単木に例えるなら、大きな洞はあっても樹皮は若く、葉の付き方も良しといったところだろうか。滝がすぐそばに流れ落ち、とても絵になる風景であるだけに、正直なところ主幹が元気だった頃の姿を見てみたかった。
ところでこのカツラは、2009年7月19日に友人のsizukuさん、hideさんと一緒に行動をしていた時に見つけたものである。本来、夏のこの時期は森の見通しも悪くなり、新たな巨樹を見つけることなど奇跡に近いものだ。巡視道からさほど外れていないことも幸運だったが、好奇心旺盛の三人が未知への何かを探るべく、五感のアンテナを張り巡らせていた成果だったかもしれない。ちなみにこの日は、「賀老大滝のカツラ」も見つけて大収穫の猟師のような気分を味あわせてもらった。 |