東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
棒杭尾根のブナ 
 
幹周  4.14m      樹高  23m       標高  940m 
 
 
 この奥多摩を代表するブナは、写真家泣かせの木でもある。斜面にある巨樹・巨木というものは、概ね斜面の下からその木を見上げるような場所が、最も見栄えがするものであろう。しかしこのブナは、そのような位置にカメラを据えるとなると、常緑樹のアセビが邪魔をして思うようにならないのだ。さらに斜面がややキツイこともあり、足場の確保を優先させると、なおさら理想とは程遠いアングルにしかならない。

 ただ、そのような人間の都合などは、このブナの前ではちっぽけなものかもしれない。なぜなら日原というよりは東京のブナの中で、「風神のブナ」と1、2を争うほどの幹周りを誇る大物なのである。そして、風神のブナの樹形が芸術的であるのに対し、棒杭尾根のブナはいかにもブナらしい円柱形の幹ではあるが、スケール感ではこちらが一枚も二枚も上である。大枝の何本かは失ってはいても、樹冠の広さも申し分がない。

 かつて、倉沢鍾乳洞が倉沢大権現として栄えた頃、修験道の行者達はこの棒杭尾根を日常的に歩いていたことだろう。この尾根を登り切れば浅間(仙元)峠は近く、倉沢から秩父へのアクセスの最短のルートである。その当時、このブナがどれほど大きさであったかは分からないが、ここで足を止めてブナを見上げた修験者がいても不思議ではないだろう。さらにはこの木に宗教的意味合いがあったとしたら・・・・・想像は尽きない。

 このブナのすぐそばには、日原で2番目に大きいツガでもある「棒杭尾根のツガ」が並び立つ。回りの木々よりも飛び抜けて大きいこの二本の巨木は、数百年の歳月を共に生き抜いた同士のようなものだろう。倉沢と言えば、一般的には「倉沢のヒノキ」が知られているが、倉沢本谷を遡って森へ分け入ると、このような巨木が今もひっそりと生き続けている。そして、滅多に来ることの無い登山者に、昔の修験者を重ねて見ているのかもしれない。

               2010年2月26日   一葉
 
 撮影日

 上  2010年  2月20日

 下  2012年  4月30日


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