----- 山 - 行 - 記 - 録 -----
 


     
 
倉沢花紀行
2010/03/20

 春の訪れを感じてみたくて、今回の探検隊は標高の低い倉沢に出掛けることにした。ところが倉沢林道は、前回の大雪で折れたフサザクラの木が林道に倒れこみ、車での走行は不可能であった。まあ、それならそれで林道をのんびり歩きながら、春を探しに林道を進むことにした。

 さてその倉沢林道は、歩き始めてすぐにハナネコノメソウが林道の道脇に、なんとも愛らしい姿で迎えてくれる。探検隊はもうすでに本気モードの撮影となり、この先の行程が怪しくなってきた。しかし、この見逃してしまいそうな白い小さな花は、春の訪れた喜びを存分に感じさせてくれる。(写真左)

 そこから林道を登り上げて行っても、ハナネコの姿は多く見られた。気温もどんどん上昇して、初夏をも思わせる陽気に汗ばむほどであった。日当たりの良い斜面では、タチツボスミレが数輪だけ開花している。今年初めて山で見たスミレは、上品な薄紫の花びらを持つベッピンさんであった。(写真中)

 この他にもツルネコノメソウ、ヨゴレネコノメソウ、コチャルメラソウなどの草花や、フサザクラ、キブシなどの樹花が見られた。林道や谷底の一部にはまだ雪も残るが、もはや春への流れは確実なものとして花も開き始めたのだろう。これから山に訪れる度に、いろいろな花が咲き競い、探検隊の目を楽しませてくれるに違いない。

 結局探検隊は、魚留橋までしか進むことはできなかつたが、今日の予定に拘る必要は全くなく、その場で目にしたものに心が動いて、何度も立ち止まってしまったからだろう。倉沢の渓流は変化にとみ、林道から見ていても飽きない。滝の数も多く、そのうちの一つ滝のそばでお昼にしたが、この時点で午後1時半を過ぎていた。

 帰りの林道では、行く時に見逃していたヒナスミレにも出逢えた。それは時間的にも日陰になってしまっていたが、淡いピンクの優しい色をしていて、枯葉の間から目覚めた春の天使のような趣があった。(写真右) 他にもエイザンスミレは、蕾が明日にも開きそうなほど膨らんでいて、いよいよ春本番も間近となっている。

 
     


     
 
白昼夢
2010/03/14

 今年に入って探検隊での山行が続いてたが、今日は久しぶりに単独の山登りとなった。といっても、林道をひたすら歩いて山に入るのも時間がもったいないので、集落からすぐに登りに入る裏山に行くことにした。

 前回、探検隊で訪れた2月7日は気温も氷点下で、風が強く積雪もところによっては20cmほどもあったが、今日は穏やかな天候で、雪も申し訳程度に残っているくらいだ。ただ、雪質がシャーベット状になっている場所が多く、歩くにはやや難儀ではあった。ここのところの気温の上昇で、さにがに冬山に慣れたいた体での登山は無性に暑く、雪が残っているとはいえ上着は長袖のシャツで充分だった。

 ヨコスズ尾根の登山道から外れ、そのまま尾根筋まで登り上げる。そこからは木々の枝越しに、鷹ノ巣、雲取、天祖、ウトウの頭が今もまだ雪を残した白い山容を見せてくれていた。この時期の尾根筋では、ケヤマハンノキが目立っている。まだまだ芽吹き前の木々の中で、オレンジや赤味を帯びた雄花が無数に垂れ、前年の果穂も一緒に残っている。(写真左) こうして見ると、ヨコスズ尾根に意外にこの木が多かったことに気付く。さらに尾根を歩いていると、こちらは珍らしい木になるが、幹にトゲのあるオオウラジロノキも見つけた。

 そして、ブナの巨木を撮影している時のことである。大きな羽音が聞こえたので顔を上げると、尾根越しに木々の合間を抜けて大きな鳥が飛んできた。「何っ!」と思う間もなくその鳥は私の真横を通り抜けた。その距離なんと10m未満。私はその鳥の腹や羽の裏側にある特徴的な白黒のまだら模様を見逃さなかった。クマタカである。それも私の至近距離を飛んでくれたのだ。これぞまさに、夢のような出来事という以外にない。日原探検隊が、いつか出逢う日を心待ちにしていたのがクマタカである。私は思わずsizukuさんに興奮のメールを送っていた。(ヨコスズ尾根は携帯送受信可能)

 この日の興奮はこれだけに止まらなかった。撮影中の大ブナの枝ではゴジュウカラが美しい声で囀り、雪の残る尾根には二頭のニホンシカが駆け抜けてくれたのである。しかし、・・・残念ながらこれらの出来事は一枚も写真には収めることができなかった。あの興奮は、白昼夢だったのだろうか・・。

 尾根の木々の芽吹きもそう遠くなさそうな陽射しの中で、ブナやミズナラの巨木も気持ち良さそうにくつろいで見える。(写真中) 帰り道で見つけたナツツバキも、午後4時頃の柔らかな光を浴び、独特の幹の模様がピンクを帯びてさらに美しく見える。いや、今風に言えば「美しすぎるナツツバキ」というところだろうか。(写真右) 

 
     


     
 
雪という名の幻
2010/02/28

 昨夜から降り続く雨は、明け方になって窓を打つ雨音からすると、どうやら幾分弱まってきたように思えた・・・(純文学的なタッチで迫ろうかと思ったが、行き詰まりそうなので終了) 天気予報では午後から快晴となり、気温もかなり上がるらしい。これは思わぬ天候の変化を森の中で体験できるかもしれない・・・という期待と好奇心から、探検隊は予定通り雨の日原へ足を運んだ。

 集落に到着しても雨は降り続いている。ところが、小川谷橋からヨコスズ尾根を見上げると、ある程度の標高から上が真っ白ではないか。(写真左) これはますます面白くなってきた。今日の目的地は唐松谷だが、これから日原林道を遡るとどんな景色に出逢えるのか、探検隊は胸を躍らせた。

 ヒデさんの車で林道を登り上げて行くと、フロントガラスに当たる雨に雪が混じり始めた。さらに標高を上げて名栗沢の手前まで来ると、雨は完全に雪へと変わり、もうそこには美しい雪景色が拡がっていた。(写真中) そして、名栗沢のトチノキも鍛冶小屋窪のトチノキも、降り続く雪に煙りながら白い世界に身を委ねているようだった。

 日原林道から唐松谷へ降りて行く頃になると、雪はほぼ降り止んだようだった。もともと気温もそれほど低くはなく、木々の枝に降り積もった雪がポタポタと雫となって落ちるのに時間は掛からなかった。そして、唐松谷へと続くつり橋を渡る頃になると、雨具なしでは行動が出来ないほどになり、降り積もった森の中の雪も瞬く間に量を減らしていった。

 唐松谷は驚くほど大きな巨樹こそないが、ブナの巨木群を始めとして、たくさんの種類の巨木に出逢える魅力的な森である。その中に、「金岱山のミズナラ」以上に身を傾けて巨樹となった「唐松谷のクリ」がある。残念ながらこのクリを撮影する頃には、積雪も殆ど融けて冬のイメージにはならなかったが、この時期本来の早春らしさが写せたかもしれない。(写真右)

 木々の梢越しに見上げる空は、いつの間にか太陽が燦燦と輝き青空が拡がっている。森はまるで、冬から春へと数時間で移り変わったようなものであろう。あまりの変わりように我々探検隊も驚いたが、森もびっくりしたのではないだろうか。雪と戯れるのは前回の倉沢で終わりだろうと思っていたが、思わぬなごり雪を楽しませてもらった。

 
     


     
 
奥倉沢、惜別の冬
2010/02/20

 倉沢、一般の登山者にはまったく見向きもされないこの地を訪れるのは、嗜好家の登山者や狩猟関係者以外にはほとんどいないのではないだろうか。今回の探検隊は、そんな倉沢林道を遡り、魚留橋からシオジクボ〜塩地谷〜棒杭尾根を巡る、言わば「奥倉沢」を訪ねてみることにした。

 倉沢橋から倉沢林道に入ると、やはり雪はそこそこ残っているが、ここのところの陽気で随分融けているようだ。日当たりの良い場所では、すっかり雪もなくなり、地面も見え始めている。しかし、林道の最終地点の魚留橋まで来ると、さすがに雪の量は多く10cm以上はありそうだ。探検隊は林道を離れ、誰の足跡もない巡視道へと歩を進める。

 巡視道は水分を多く含んだ雪で歩き易くはないが、その登り始めからモミやヤマザクラ、ケヤキの巨木が出迎えてくれる。標高を上げるに従い、日を受けた雪の斜面の煌きが目に眩しい。途中にある何本かの木橋の様子が気になっていたが、雪がこんもり積もっているものの、危険なほどではなかった。

 シオジクボの手前まで来ると、そのカツラの巨樹は巡視道からも姿が望めるようになる。倉沢と言えば「倉沢のヒノキ」だが、奥倉沢はこの「シオジクボのカツラ」の他にも、巨樹・巨木を多数見ることが出来る隠れた名所であろう。かなりきつい斜面に積雪もあり、カツラのそばに行くことを躊躇ったが、探検隊の好奇心はそれに勝っていた。足場を固めながら登り上げたその先には、雪の中に佇む巨樹の雄姿が待っていた。(写真左) 私個人では一年ぶり、探検隊としては初めての巨樹になる。カツラにしては主幹が異様に太く、この大きさながら痛みもほとんど見られない。これは対岸の尾根から見ると分かるが、他の木々よりも遥かに大きく、またその樹高も際立っている。

 探検隊は巡視道に戻り、シオジクボを横切り、塩地谷の平な場所でお昼にすることにした。ここもヤマザクラやメグスリノキの巨木などがあり、塩地谷の瀬音が聴きながら倒木の丸太に座っての食事を、探検隊は「倉沢亭」と名付けて楽しんだ。そしてそのそばには、小さいながらも美しい滝があり、残された雪や氷はあるものの、もはや冬の終わり告げているような優しさがあった。(写真中)

 その後塩地谷を渡り、雪の深い巡視道を登り上げたり下ったりしながら、最終目的地の棒杭尾根の巻き道にでる。ここだけはやや雪の量も多く、道幅が狭いこともあり、探検隊は慎重に歩を進める。やがてその道の先に見えてきたのは、「棒杭尾根のツガ」と「棒杭尾根のブナ」の二本の巨木の梢であった。

 この両巨木は、一般にはほとんど知られていないが、樹種別の大きさでいえば日原でツガ、ブナのそれぞれ2位を誇る大物たちである。ただ、両巨木とも雪の残る急斜面にあり、常緑樹のアセビが繁茂していることもあって撮影には不向きである。しかし、その僅かな間隙を縫って撮影を試みる。(写真右)

 日はとっくに山陰に隠れてしまっているが、もうこの時期は午後5時を過ぎてもまだ辺りは明るい。ここからは倉沢林道を目指して、探検隊はひたすら人工林の森を下る。林道に降り立った頃には三日月も姿を見せ、薄暗くなった倉沢によく似合っていた。今シーズン、雪の山を堪能するのはこれが恐らく最後であろう。探検隊は冬山を惜しみつつ、雪に「See you again!」と書いて倉沢を後にした。

 
     


     
 
真冬と早春の尾根
2010/02/07

 ここのところの寒波で、日原の朝の気温は零度を下まわる日々が続いているそうだが、昨日の−7℃に比べたら今日の−1℃は暖かい・・・とは地元の人の弁である。都心からやって来た私にとっては十分な寒さなのだが、今日はさらに昨日からの強風が治まらない。空は雲一つ無い晴天ではあるが、探検隊の今日の目的地の裏山はどんな様相を呈しているのだろうか。

 日原集落から一杯水へ向かう登山道は、登り始めの人工林のところでは多少雪が残る程度だったが、登り上げてヨコスズ尾根の巻き道に出る手前あたりから雪は深くなってきた。しかし、気温の低さと締まった雪質のせいで靴底に雪が付く事もなく、歩行にそれほど支障はなかった。ただ、高度を上げるにつれて木々を揺らす風は強くなり、その風音はダンプから勢いよく砕石を流し落とすようであった。探検隊は、少しでも強風を避けようとヨコスズ尾根にはすぐに登らず、しばらく巻き道を歩いて、とある小さな尾根からヨコスズ尾根に取り付くことにした。

 自然林のその尾根は、ヨコスズ尾根が風を遮断してくれているお陰で無風に近い。もともと晴天ということもあり、そこはまるで早春を思わせる穏やかな雪の森であった。(写真左) 15cmほどの積雪の中を登り上げて行くと、ヨコスズ尾根の尾根筋へと合流するが、そこにはまるっきり別世界が我々を待ち受けてていた。

 ヨコスズ尾根西斜面に吹き付けた強風は、そのまま尾根筋まで駆け登り、20cm以上は降り積もった積雪を地面が露出するほどに吹き飛ばしてしまっている。(写真中) もちろんチョー寒い。先ほどの早春の森とは月とスッポン、極右と極左の如き変貌ぶりである。しかし、探検隊はめげない。いや、めげるどころか雪の風紋がどうの、地吹雪がどうのと好奇心の方が先行している。

 そして、その厳しい寒さと風の中での締めくくりは、三人揃っての巨木の前での記念撮影であった。寒さに震えながらも遊びまわり、午後3時半を回った頃に下山を開始する。その頃になってようやく風は弱まり、森は優しげな表情を見せ始めた。強風に晒された木々も、どことなくホッとしているような気がした。(写真右) 早春と真冬が同居するこの尾根は、まさに季節の境目であったのかもしれない。

 
     


     
 
楢平裏参道
2010/01/23

 本来、楢平に行くのに裏も表もないのだが、去年末に探検隊で使ったルートではなく、今日は別のルートからアプローチしようということで、その道を裏参道と呼ぶことにした。裏と表、どちらを使っても人工林を登り上げることになるのだが、裏の方を使って登った記憶は、もはやうっすらと憶えている程度になっていた。今回の探検隊は、その記憶の糸を辿るべく日原林道某所から足を踏み入れた。

 人工林の続く森を歩きながら、ここでは何も期待をしないで下さいと言う私に、sizukuさんは「人工林にもお宝があるんですよ!」と気にも留めずに笑い飛ばしてくださった。しかし、お宝かどうかは別にして、人工林と人工林の狭間にある自然林の窪に、何とも楽しい場所が存在した。そこはV字の窪の中心を境にして、左岸側にはおびただしい落ち葉の吹き溜まりが出来上がり、探検隊の足は全員そこでピタッと止まってしまった。(写真左)

 もうこれは、ここに寝転んでみるしかない。三人とも考えは同じで、リュックを下ろして落ち葉にダイブ!よくフカフカの落ち葉という表現があるが、それよりも遥かに柔らかいフワフワの感触に身を預け、空を見上げる陶酔感は間違いなく病み付きになる。かくして探検隊は、砂場で遊ぶ子供のようにしばし時を過ごした。

 思わぬ道草に時間を忘れていたが、楢平はまだまだ先である。気を引き締めてさらに人工林を登り上げる。すると人工林の隙間から、高い梢の木々が見え始めた。それらは見るからに巨樹の雰囲気があり、裏参道を外れて登って行けば辿りつけるそうである。こんな時の探検隊は、迷わずGO!で一致する。

 そして、道を外れて辿りついた森は、なぜか見覚えがある・・・ここ楢平じゃん・・。なるほど、巨樹があって当たり前の場所である。そこは楢平の最下部で、倒伏した何本かの巨樹が今も威厳を残し続けている森だった。(写真中) しかし、それ以上は楢平には入らず、再び裏参道に戻り上を目指す。

 どうやら登りも終わりに近づいてきた頃、楢平最上部にあるミズメの巨木が目に入った。時計も12時を回ったことだし、ここでお昼にしようということになった。暖かな陽射しには恵まれているとはいえ、なんといっても冬山である。いつもながら、ヒデさんがお湯を沸かして作ってくれた暖かいスープはありがたい。Hotするひと時である。

 食事も終わり、楢平の森を見ながら下降していると、俄かに上空の雲が発達して陽射しを遮り始めた。それとともに温度は下がり始めたようで、時折吹く風は冬本来の冷たさを運んでくる。倒木更新で成長したミズメも、その何本も伸ばし降ろした根が寒そうに震えているようだ。(写真右) それでも探検隊は時間の許す限り森を満喫し、木々との触れ合いを楽しんだ。下山して林道に着いた頃には細かな雪も降り出していたが、午前中の暖かな陽射しの中で、吹き溜まりの葉の上に寝転んだ楽しさを私は思い出していた。

 
     


     
 
探検隊寒山へ
2010/01/16

 ちょっと出遅れてしまったが、今年最初の山行は探検隊として金岱山直下の森へと出掛けることにした。このところの寒波の影響で、澄み切った青空にも関わらず寒さが身に沁みる。出発前に森林館の外にある温度計を見ると、−2℃・・・。今日の目的地は標高1300m前後だと思うが、如何ほどの気温になることやら・・。

 小川谷林道を遡り、人形山尾根末端からの巡視道に取り付く。日陰の林道は、先日降った雪も融けずに残っているが、巡視道を登り上げると朝の陽射しが差し込み、やわらかな落ち葉を踏みながら尾根上に出る。しかし、そこから尾根を回り込むと陽射しは尾根で隠れ、雪は巡視道を白く覆い尽くしていた。気温も一気に低くなるようで、道は霜柱の上に降り積もった雪を踏みしめて歩くことになる。人工林が長く続く道を、探検隊はひたすら登り上げる(写真左)

 唐松の人工林が終わり、自然林の中にイヌブナの巨木が目立ちはじめると今日の目的地の森になる。巡視道を外れ森の中心部に進むと、今度はミズナラの巨木が次々に現れる。かなりの樹高をも誇るミズナラの裸木たちは、澄んだ青空に思い切り背伸びをしているように見える。(写真中)

 ここまで登ると、陽射しもたっぷりと降り注いでいるのだが、なにせ今日は気温が上がらない。ましてこの標高では、雪も全く融ける気配もなくサラサラである。体を動かしている時はいいが、ジッとしていると冗談抜きで震え上がる寒さであった。しかし、木は文句も言わずに静かに佇んでいる。そんな木の中にはハリギリ、イタヤカエデ、メグスリノキ、ミズメ、ホウノキなどの巨木もあり、寒さで挫けそう?な探検隊を笑って迎えてくれたようである。

 下山の時間となり、森を抜けてタワ尾根上に出ると、風はややあるが雪はまばらに残る程度となる。さすがに日照時間の長いタワ尾根筋は、下りでも全く心配のいらない快適な道だった。午後4時を回り、残照が対岸の長沢背稜の山々を赤く染める(写真右)

 いろいろ道草の多い探検隊なので、下山するには少し遅い時間になっていたが、このまま人形山尾根を下り小川谷林道へ降りるルートを選択をする。凍った地面に雪が降り積もり多少不安定な箇所もあったが、なんとか無事に下山すると、陽はすっかり落ちてしまって林道はかなり薄暗くなっていた。今年初の探検隊は、寒さに震えながらの雪山歩きだったが、メグスリノキの翼果を雪の上に探したり、逆光に煌く残雪の美しさに思わず歓声を上げたりと、冬ならではの山の魅力を充分堪能できた山行だった。

 
     


     
 
約束の地へ
2009/12/23

 今年最後となる山行は、探検隊結成のきっかけともなった場所「ナラテイロ」に行くことにした。もしこの森がなければ、sizukuさんと山行を共にすることはなかったであろうし、当然のことながらその友人のhideさんに出逢うこともなかった。そういう意味では探検隊の原点とも言える場所だが、「いつかお連れします。」と言ったまま、この一年を通してまだその地には辿りついてはいなかった。そこでクリスマス・イブの前日ということもあり、お二人に「約束の地」をプレゼントすることにした。

 この日はしばらく続いた寒波も去り、朝から澄んだ青空と暖かな陽射しに恵まれて、ナラテイロへの期待は嫌が上でも高まった。日原林道から人工林の中の巡視道を登り上げ、やがて自然林が目の前に近づいても、私は二人をそこからナラテイロに導くことはせず、「まだまだ」と言いながら人工林の道を登り続けた。

 やがてその人工林が平になった頃、私は二人に左前方を見るように指差した。そこにはかつて豊かであった頃の森の墓標があった。(写真左) この立ち枯れたクリの巨樹は、倒伏することもなく、風雪に晒されながら芸術的な樹形に姿を変えた。周りの人工林には、おびただしいクリの巨樹の切り株が残され、もし手付かずの自然林のままであったのなら、ここがどんなに素晴らしい森であったのかが窺い知れる。この立ち枯れたクリのオブジェは、巨樹の森の記憶を今に伝えるナラテイロの象徴なのかもしれない。

 そして、いよいよその自然林が残された最後の聖域「ナラテイロ」に足を踏み入れる。ナラテイロは人工林に挟まれた細長い地形で、その頂点には威風堂々としたミズメの巨木が鎮座する。その白い樹皮が青空に映え、メリハリの利いたコントラストが素晴らしい!
そこから自然林の中を降りていくと、ミズナラの巨木があちこちに現れ、コブだらけのシナノキなども目にすることができる。

 やがて、この森の最大の巨樹「ナラテイロのミズナラ1」がある平らな場所に降りて、そこでお昼にすることにした。hideさんがお湯の用意をしてくれている。(写真中) 枯葉の絨毯は座り心地が良く、明るい日差しと暖かな食事のお陰でほとんど寒さは感じなかった。

 私は、自分のホームページ用にどうしても撮っておきたかった巨樹があったので、お二人を放置?して撮影に没頭させてもらった。やがて日は傾いて対岸の尾根に掛かる頃、森は赤味を帯びた柔らかな色へと姿を変えてゆく。巨木達の幹にも陰影が浮かび、昼間よりもさらに不思議の森へと我々を導いているようだ。(写真右)

 しかし、この赤い森の時間はけして長くは無い。もっと長居をしたいところだが、それは下山を促す合図でもある。探検隊は登り上げた道を素直に下らず、巡視道を外れてブナの巨木が林立する尾根を降りることにした。来た道を帰りは通らない・・・探検隊の歩く道は再訪し難い道でもある。(笑)

 
     


     
 
金岱山のミズナラごあんな〜い!
2009/12/13

 かねてより「金岱山のミズナラ」に逢いたい、と夢見ておられたKさんの情熱触れ、今日はその望みを叶えるべく一役買うことにした。折りしもこの日は、私にとって今年30回目の日原山行ということになる。天候は午前中は晴れ、午後からは曇りということらしい。

 森林館で待ち合わせて10時20分に出発。Kさんは写真家の高橋弘さんとの共通の友人で、お互い九州出身ということもあり気心は知れている。籠岩下の登山口まで、足もおしゃべりも軽やかに進む。籠岩下にある石仏に今日の安全を祈り、スミクボの急斜面に取り掛かる。Kさんは膝に爆弾を抱えているために、今日の登山に備えて万全を期して来られた。私も、その爆弾を破裂させないために、なるべく優しい?登りに徹した。しかし、さすがに登り始めの急斜面は、膝はともかくKさんの心に衝撃を与えたようである。(写真左)

 Kさんは山慣れした方ではないが、それほど息も上がらずにスミクボの巨樹周回コースの基点に到着。そこで「スミクボのケヤキ」をご案内する。そしてそこからスミクボを折り返し、タワ尾根まで続く自然林の中の九十九折れを登り上げる。Kさんに言わせると、上を見ても下を見ても急な斜面にクラクラするほどの道なのだそうだ。なるほど、山慣れとは感覚がマヒすることのようで、一般に人にとっては道幅30cmほどの手摺もない道は非日常の世界であり、とんでもないところを歩いているこのとようである。

 そんな心細い道も、キツツキのドラミングや木々が葉を落として見通しの利く遠望の景色に助けられ、Kさんをタワ尾根上まで誘導?する。さて、ここで燕岩まで行くか、そのまま「金岱山のミズナラ」に向かうか、Kさんの膝の状態と心理状態を尋ねると、ここまで来たら行きましょう!とのこと。しかし、やはり岩場の下り見た瞬間、「え〜っ、ここを下るの!」という反応。それでもKさんは決断を変えることなく、燕岩の頭までしっかりと後ろを付いてこられた。

 ただ燕岩からの展望は、Kさんの想像を超えていたらしく、後にあそこに行けてよかったと何度も言っておられた。Kさんは石の上に座って安定を図り、さかんにカメラのシャッター音を響かせていた。(写真中)

 12時はとうに過ぎていたが、お昼にしますか?と尋ねるとミズナラまでがんばるとのこと。それではということで、ミズナラまでのなだらかな尾根を30分ほどかけて登っていった。そしてKさん念願の巨樹にご対面となる。(写真右) 丁度そこで休んでおられた方が立ち上がり下山されると、その空間は我々二人だけが独占する贅沢な時間へと様変わりした。Kさんは時間の許す限りミズナラと語り合い、その姿をカメラに収めている様子だった。そして人面木「楢太郎」をいたく気に入ったようで、ニコニコしながら語りかけておられた。「楢太郎」もこの時は、ニコニコで応えてくれていた。

 ここで少し遅いお昼を摂ると、やがて下山の時間が近づいてきた。Kさんとミズナラの周りを一周しながら話しかけ、そして別れを告げると、来た道をそのまま引き返すことにした。Kさんは、登りの時よりずっと斜面に順応して、本来怖いはずの下りの道にもわりと余裕の表情だったようである。日が翳り、気温が下がってきた道を、爆弾を破裂させないように押さえ気味に歩く。やがて小川谷の瀬音が響き、下のほうに林道が小さく見えてくる。Kさんもそれを見るとまた元気が出たようで、どんどん高度を下げてやがて無事に下山することができた。

 籠岩下の石仏に、今日の山の安全の感謝をして、集落に向けて歩き出す。吹き抜ける風は冷たくなっているが、楽しかった山のことを話しながら、Kさんの「夢」の実現にお役に立てたことをうれしく思っていた。

 
     


     
 
日原某尾根探検隊
2009/12/06

日原探検隊はこの日、とある情報をもとに、まだ見ぬミズナラの巨樹を求めて探しに行くことにした。某尾根にあるというそのミズナラは、写真で見る限り幹周りが6mを超えると思われ、いやが上でも探検隊の士気は高まった。
前日の強い雨とは打って変わり、この日は朝から抜けるような青空が拡がっている。ヒデさんの車で日原林道を奥山まで遡り、そこから巡視道を歩いて目的の尾根に取り付く。しばらくはアセビのトンネルのような道が続くが、やがてミズナラやクリを中心とした落葉広葉樹の森へと尾根は姿をかえる。そして尾根伝いに歩いていても、3〜4mクラスのミズナラが次々と現れる。(写真左) しかし、これらはまだ狙う大物とは様子が違うようである。
やがて、葉を落として見通しの良くなった木々の梢越しに、猛禽と思われる鳥の飛翔が見えた。それも数羽が乱舞している。双眼鏡で確認してみると、どうやらタカらしい・・・?。 しかしそのタカらしきものが、何度も近距離を飛び回り、近くのミズナラの枝に降りたりと、信じられないような目の前の光景を、探検隊は固唾を呑んで見守った。果たしてヤツらの正体は、何物だったのだろうか。
そんなサプライズに遭遇して、肝心のミズナラの探索を忘れていたが、しばらく尾根を登ると4.5mのミズナラを見つけた。樹形は写真と似ている。もしかしてこれだったのか・・・という残念な結果も頭によぎったが、探検隊はさらに上を目指した。そして広かった尾根が狭まり、ツガの巨木を過ぎた先にそのミズナラは凄まじいオーラを放ちながら立っていた。(写真中) 探検隊が歓喜に沸いたのは言うまでもない。予想の6mには届かなかったが、5.9mという大きさながら、ほとんど傷みも見られない見事なミズナラであった。探検隊はこの木を見ながらお昼にすることにした。いやはや、なんとも贅沢な山ご飯であった。
このミズナラの上にある森も素晴らしく、ミズナラの巨木はそれこそゴロゴロと見つかった。おやっ、森の中から小人が現れた! と思ってよ〜く見れば、それは探検隊のsizukuさんだった・・・という物語が生まれそうな豊かな場所である。(写真右)
残念ながら時間はもう午後3時を過ぎている。日は対岸の山に沈みかけていて、もうこれ以上先に進むことはできない。探検隊は再度この尾根を訪れようと誓い合い、暗くなる前に下山しようと足早にこの地を後にした。

 
     


 
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