日原に幻冬の滝・・・という正式な名称の滝はない。ただ、何度もそばには行っているのだが、一度たりとも滝を間近に見たことはなく、人が近づくことを拒んでいるような滝がある。滝上の尾根からは、森が緑の葉で生い茂る季節には見え辛く、冬木立の時でなければ滝はその全貌を現さない。この日原本谷を豪快に流れ落ちる滝のことを、私はいつしか「幻冬の滝」と呼ぶようになった。
そしてこの日、探検隊はその滝を目指して日原本谷の遡行に挑んだ。本来、去年に予定をしていたことなのだが、決行日になると必ず雨となり、なかなか近付くことを滝は許してくれなかった。しかし今回は朝から晴天で、午後からも天候の急変はなさそうである。探検隊は今日こそはと意気込んで、ヒデさんの愛車で日原林道へと滑り込んだ。
いつもの場所に車を止め、林道から谷へと森の中を下降して行く。林床には至るところでキノコが顔を出し、ゆっくり撮影したい衝動に駆られるが、今回だけは滝が優先である。リュックを谷底よりかなり高い場所に置き、必要なものだけを携えて苔むした岩場を降りて谷筋に至る。
この谷を遡れば、滝に到達することは間違いないが、果たして我々がそこまで行けるのやら・・・。なにせ探検隊は沢登りなどの経験も無く、ましてやそのような装備など持ち合わせていないのである。秩父の事故の直後でもあり、当然無理はできない。幸いなことに目の前の谷は幅も広く、浅瀬を選んで進めば危険ではなさそうである。
探検隊はズボンを膝の上まで捲くり上げ、足にはサンダルという安易なイデタチではあるが、流れを何度か横切りながら上流へと進んで行く。すると流れの中に、ツガの巨木が横たわる場所へ出た。(写真左) 恐らく倒伏した後に、上流から流されてきたものだろうが、その存在感は不思議とその場所にマッチして、谷の景観にインパクトを与えていた。
そこからさらに上流を目指してルートを模索する。目的の幻冬の滝からは、地響きのような瀑音が聞こえてくる。しかし、今まで広かった谷の幅が次第に狭くなり、流れの中に浅瀬が見当たらなくなってきた。それでもなんとか前に進んで行くと、その狭くなった谷に、大岩が流れを半分塞ぐように立ちはだかっているではないか。(写真中) 滝まではあと30mほどだというのに・・・。
その岩を乗り越えるにはあまりに大きく、流れの中を進むには深く速すぎである。残念だが、ここは潔く諦めるしかない。滝壺から舞い上がる水煙が、わずかに見えるところまで来ているというのに、滝はその姿を見せようとはしなかった。きっと、沢登りをする人達にしてみれば、何のことはない急流の瀬かもしれないが、我々はこの分野ではド素人である。ここまで来れて滝壺に迫った、というだけでも充分であろう。
帰り際に滝を見下ろす尾根に登ってみたが、やはり生い茂る木々の葉が緑のベールとなり、滝を曖昧にしか見せてくれない。(写真右) しかし、探検隊はまだ望みを捨てたわけではない。いつの日にか必ず、あの滝を前に三人で記念写真を撮ろうと密かに誓いあったのである。 |