巨樹・巨木 
 
 ナラテイロのミズナラ 4
  幹周  4,86m        樹高  25m        標高  1280m
 
 
  それは、おそらく勇壮な姿をした二股の大ミズナラであったに違いない。私が初めて訪れた10年前には、もうすでに現在の姿ではあったが、いつ折れたとも知れない巨大な枝が横たわるすぐ側には、今だ健在の一方の大枝(もはや堂々の主幹ではあるが)が、天に向かって成長を続けている。倒れた大枝が引き裂いた幹の損傷は、見た目にはかなり大きいにも関わらず、このミズナラはそれでも幹周が4.86mの太さを誇っている。かつて大枝の2本が並び立っていた時代には、6mを優に超える大きさであったことは疑いようもない。

 2009年12月23日現在、ナラテイロ最大の巨樹は、巨樹群の中心にある「ナラテイロのミズナラ1」の5.32mで、押しも押されもせぬこの森の主役である。自然林の森では、その場所を象徴するような巨樹があるもので、だいたいそのような巨樹は、幹の大きさが物を言う場合が多い。もちろん「ナラテイロのミズナラ1」は見事な巨樹だが、もし大枝が折れる前であれば、この「ナラテイロのミズナラ4」がその座を占めていたことだろう。

 人と同じように、森の主役もいつまでも主役のままではいられない。それは人よりも遥かに長いスパンにはなるが、「倉沢にヒノキ」「金岱山のミズナラ」も、いつかその座を追われる時が来るだろう。そのように森は森のスピードで、ゆるやかに世代交代が繰り広げられている。何百年という歳月を掛けて、幼木や若木がその座に登りつめることを想うと、森の象徴とは神以外の何物でもないと思えてしまう。

 「ナラテイロのミズナラ4」は、この森の主役の座を追われてしまったが、その威厳は今だ衰えを見せていないようだ。折れて横たわる大枝は、すでに土に返ろうとしているが、巨木の幹とも思えるそのスケール感には圧倒される。そして残された壮絶な傷跡も、戦いに傷ついた戦士のような凄みを残したままである。主役の座は降りても、その生き様が現れた風貌は、主役も一目を置く森の名脇役と呼ぶに相応しいようだ。

                            2009年12月30日  一葉
 
  撮影日

 上  2009年 12月23日

 下  1999年 10月13日


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