東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
大見得のブナ 
 
幹周  3.25m      樹高  20m       標高  1220m 
 
 
 木の樹形は、樹齢を重ねるほどに個性が際立ってくる。その木の持つ特性と、生まれ育った環境が樹形を作り出すポイントになるが、そこに数百年の歳月をかけながら木は只ならぬ姿に変貌していく。特に山中の木は、環境に順応するためにあらゆる知恵を絞り、動くことの出来ないハンデを克服して生き延びようと、より個性の強い樹形になる場合が多いようだ。

 この「大見得のブナ」も、個性的な樹形という面ではブナの中でも特筆すべき巨木である。幹周こそ驚くほどの大きさではないが、「風神のブナ」と同じ尾根にあり、強風の影響をもろに受けたような樹形がその根や枝に如実に表れている。その根の張りは見るからに力強く土壌を掴み、幹の下部から伸びた枝は今でもしっかり残っている。まるで生きるために必要なものだけが、「樹形」となっているようだ。

 ところでこのブナの「大見得」とは、歌舞伎の「大見得を切る」からもらっている。ちなみに見得とは、感情の高まりなどを表現するために、演技の途中で一瞬ポーズをつくって静止する演技をさし、より効果的に見せるために、直前に大きく首を振ったり、足を大きく踏み出したり、手を大きく広げたりする動作を伴うそうである。そこから自信や得意な気持ちを、ことさらに誇示するようなおおげさな態度や言葉遣いを、そのように指すようになったと言われている。

 このブナの幹の下部から伸びた枝は、その見得を切る歌舞伎の仕草を連想させる。風神のブナもそうであるが、力強く足を踏ん張り、手を横に大きく広げて「見てくれ!」と言わんばかりに決まったその姿は、かなり年季は入ったベテラン役者の見得と比べても遜色はないだろう。あまり健康とは言えず、根元からシナノキの成長に侵食されながらも見得を切り続けるその生き様は、厳しい環境で生き抜いたこのブナのプライドのように思えた。

              2011年1月30日 一葉
 
 撮影日

 上  2010年 11月03日

 下  2010年 11月03日


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