巨樹の楽しみ方にもいろいろあるが、個人的には巨樹を探し出すことが何より楽しい時間だと思う。それは何も山奥の未知の巨樹というだけではなく、街の中の巨樹であってもその醍醐味は味わえる。例えば知らない街を歩いていて、大きな梢を建物越しに見かけたとする。どんな木だろうと近付いてみると、予想を超えた大きさの巨樹に巡り合えたとしたら、その喜びは自分で見付けた分だけ味わい深いものになるだろう。
孫惣ブナ1、孫惣ブナ2、孫惣ブナ3は、当時森林館職員だった北山さんと一緒に見付けたもので、それも数時間で幹周りが4mを超える3本のブナに出逢えるという、まさに興奮の一日だった。それは全く予備知識も無く入った山で、やはり尾根越しに大きなブナの梢を見付けたことから始まった。そこで獣道だよりに近付いてみると、それが逞しい幹と美しい根張りを持つ孫惣ブナ1だった。
そこから斜面の上を見上げて、見付けた太い幹のブナが孫惣ブナ2であり、さらにその上の斜面にあったのが孫惣ブナ3になる。このブナは他の二本と比べて、樹形のスマートさ特徴的である。幹周りはどれもほとんど変わらないために、スマートに見えるということは一番樹高があるからなのだろう。スーッと伸びた幹は痛みも無く、豊かな土壌に育ったせいか巨木の割りに根元の露出も見られず、まるで若木の趣を漂わせている。
しかし、これだけスマートで樹高の高いブナにもツキノワグマは登るようで、幹にはしっかり爪跡が残されていた。晩秋のある日、根元に葉の付いた枝が落ちていたことがあったが、これはこのブナの枝が折れたものであろう。もしかしたら、クマがブナの実を求めて木に登り、その際に実の付いた枝を折って食べ終わった跡なのかもしれない。日原有数のブナ林であるこの場所は、クマ達にとっては格好のエサ場なのだろう。
2011年1月15日 一葉 |