奥武蔵 獅子舞の夏 感動をもう一度・・・(2) |
獅子舞の影 |
3、 ささらっ子たちの夏… 午後の最初の演目は棹懸りだ。庭場の中央に太い竹棹を渡し、これを川に見立てて、女獅子が最初に浅瀬を 見つけて川を渡り、続いて小太夫、大太夫が女獅子に先導されながら川を渡るというストーリーだった。 この芝の面白さは、演じ手と棹持ちとの駆け引きにもあるのだそうだ。この芝では女獅子役が、ほとんど休み無く 長時間舞うため、すべての芝の中でもっとも辛い芝になるのだと言う。 また、この芝には最年少のささらっこが演じているそうだ。エコツアーの案内役として、朝からずっと案内して下さって いる獅子舞保存会のSさんの説明に耳を傾けながら、興味深く拝見する。 |
最初は女獅子が、浅瀬を見つけて恐る恐る川を渡り始めた。 |
この芝の見所が、棹を持つ人と、獅子との駆け引きにあるのだという意味が何となく分かった。 獅子はこうやって、時々、力いっぱい体ごと棹に激突する。棹が大きくしなった。 棹を持つ人も油断できない、しっかり足を踏ん張って棹を持つ。 |
女獅子に先導されながら、小太夫も川を渡り始める。 |
棹を持つ人は、少しづつ棹の高さを下げていく、低ければ低いほど獅子役者の技術が優れていることになる。 この芝は獅子舞役者の正念場で、ちょうど獅子になって3年目にやる芝なのだと、Sさんが話し始めた。 『低い姿勢で舞うので翌朝は腰が立たなくなってしまうくらいキツイ芝なんですよ。今でこそ やめてしまう人は めったにいないけれど、辛くてやめてしまうのがこの 芝なんですよ。』と、話しながらSさんは、食い入るように 見つめながら、『よし!頑張れ!』と声をかけた。 その眼差しがきらきら輝いていた。 それもそのはずだ。Sさんは先ほどの花懸りで小太夫を演じていたベテランの獅子舞役者さんだったのだ。 とても穏やかな物腰のSさんが、あの勇壮な舞を演じながら庭場を走り回っていたお獅子だったなんて、 わたしたちはびっくりしたり 感心したりだった。こんなギャップがたまらない…(*^_^*)それが、下名栗の獅子舞の魅力のような気がした。 |
次は、大太夫が渡る番だ。女獅子は休み無く踊り続けるのでキツイはずだ。 |
棹の端から端までを中腰の姿勢で何度も往復して懸かる。 2匹の獅子の息もぴったりあって素晴らしい見せ場だった。 |
途中、芝のわずかな合間を縫って、演じ手をねぎらうようにサポートの人々がさっと駆け寄る。 ウチワで風を送ったり、水を届けたり、激しい舞に緩んだ獅子頭を結わきなおしたりと、きびきびと行動する。 ウチワであおいでいるのは、昨年、「白刃」の演目で太刀遣いを演じたベテランの役者さんだったと思う。 こうして、すべての人たちがサポート役にまわったりしながら進めてゆく獅子舞は、絶妙のチームワークだった。 |
三匹とも無事に川を渡り終えて、大喜びで舞い始める。 |
庭場いっぱいに駆け回り、飛び回る姿は躍動感があり見事で胸がすく思いがする。 |
動の演技の後は、お辞儀をするような独特のステップで静の動作に入る。 |
動と静では、笛の音色が変わる。笛方のリードもまた素晴らしい。 |
一回り小さいささらっこは、最年少の小学校3年生 女獅子とほとんど同じ重さの花笠を被り懸命に立ち続ける姿に目頭が熱くなる。 |
ちいさな手、ちいさな足で、ささらっこたちは、獅子舞に華を添える。 黙々とささらを鳴らし続け、体をひねりながら演技をする。 この日のために、どんなに練習を重ねてきた事だろう… 4人のささらっこが、かき鳴らす、すりざさらの音は存在感を持って境内に響き渡る。 すりざさらと呼ばれるこの楽器は、すす竹という稀少な竹から作られているという。 |
ささらっこと呼ばれるささらを演じた少女たちも、花形の獅子たちと変わらないくらいに、とてもよく頑張った と思う。Kさんに寄れば、地域の大人たちの中で、時には厳しく指導される事は、少女たちにとっては初めての 経験になる。 ささらっこたちは、8月1日の稽古始めから2日か3日に一度は練習して、本番に臨みむそうだ。特に小学生は お祭りが終わると、格段にたくましい顔になっているという。 その言葉は、ささらっこの年長の中学生、高校生のお姉さんたちが、献身的にお世話をしている姿を見ても頷ける。 大人たちが指示をする訳ではない。自分たちで考えて素晴らしいチームワークでサポートに徹しているのだった。 芝の合間に、タオルで汗を拭いてやり、水を飲ませてあげる。大きなうちわで扇いで風を送ってあげたり、 すりざさらを持ち続けなければならない小さな手を、マッサージしてあげている姿もあった。 自分たちが辛かった事、大変だった事を体で覚えているのだろう。そんなところを細やかな気配りでホローしている。 わたしは、その姿に胸を熱くせずにはいられなかった。彼女たちもまた祭りの主役だと思った。 |
『だいじょうぶ?手が痛くない?』 『○○ちゃん、がんばってね。』 サポートをする少女たちは、ささらっこの顔を覗き込みながら笑顔で励ます。 |
ささらが出来る年齢は限られているという。後継者探しが大変だとも伺った。 Kさんは、来年は芝を減らさなければならないかもしれないとおっしゃった。 それはとても残念な事だと感じられた。出来るなら、ササラを演じられる年齢を引き上げていただけないもの かとも思う。伝統を重んじる神事だから、そう簡単にはいかないのかもしれないけれど… |
まっすぐ前を見つめる瞳は、やり遂げようと言う意思を伝えている。 健気な眼差しに、感動した。ささらっこたちにとっても、また熱い夏だ。 |
木陰で仲良く話し合う。未来のささらっこかなぁ? |
この子たちは、未来のお獅子になるかもしれない。 |
名栗の里の長老さんたち。にこやかな優しい笑顔が素敵です。 |
4、 獅子舞の影・・・ 次の演目は女獅子隠しだ。この芝は一番長くて、2時間もの長丁場の舞だ。 この獅子舞のなかで、もっとも個人技が発揮される芝だという。 男女の恋の葛藤を描く芝で、心模様を描く繊細な演技が繰り広げられる。 前半の丁寧な静の芝の後、後半は、女獅子を巡る二匹の雄獅子の喧嘩場と呼ばれる激しい舞が続く。 この喧嘩場は、力強くスピード感があり、笛の音色も甘美な節回しから一転して激しく強い節回しになる。 その一挙一動から目が離せず、見ている人々は、ぐいぐいと引き込まれてしまうくらい迫力がある。 最後に、女獅子が仲裁に入り、三匹は元通りの仲良しになって、喜びの舞を乱舞する。 広い庭場いっぱいに駆け回り踊る姿は素晴らしく惹きつけられてやまない。 踊る獅子舞役者にとっては、心臓が飛び出るくらいの激しい芝だと言い、ささらと共に精神力と体力がいる そうだ 。 |
庭場で演じる獅子やササラをぐるりと周りを囲んだ観客たち |
この芝の見せ場のひとつ。恋の駆け引きだ。 女獅子を誘う雄獅子役の役者は、本気で女性を誘うつもりで演じるという。 |
恋人に未練を残しながらも、次第に新しい恋に惹かれていく女獅子 情感細やかに演じる女獅子役者は、上級者が演じると見るものの涙を誘うという。 |
ついに女獅子を誘い出し、喜びに舞う。 |
眩しく容赦なく午後の日差しがじりじりと庭場を照らす。 ふと、地面に大きく影を落とした獅子舞の影を見つけた。 |
ジャンプした獅子舞役者の影。何だか面白いなぁと思って、影を狙い始めた。 |
解けた紐も、リアルな感じで臨場感がある。 |
わたしは影を撮るのが楽しくなって次々と追い求めた。 なんとなく、影だけが踊り手を離れて地面の上で踊りだしたような錯覚に落ちた。 |
午後の日差しが翳りながら、金色の獅子の顔を照らし、 |
獅子の足元に影を落とす。 |
獅子が打ち鳴らす太鼓の音に合わせて影は生き物のように…地面を飛びまわった。 |
獅子たちの熱演が続く |
ささらっこの影も、いつの間にか地面で躍りだす。 |
色とりどりの帯が揺れる。後姿も美しいことに初めて気づいた。 |
すりざさらを鳴らしながら、体を左右に回転させて踊るささらっこ |
すりざさらの房も揺れてる。片時も休むことなくササラを鳴らすのは根気が要る仕事だ。 |
頑張ったね!影もそう言っているみたい。 |
見守るおじいちゃんとおばあちゃん、おとうさんとおかあさんたちは、どんなに喜んでくれたことだろう。 2時間もの長い芝を、ささらっこたちは頑張った。8月の終わりの太陽は、少しづつ傾いていく。 庭場の影法師たちも、いつの間にか小さくなっていった。 3部 白刃・千秋楽 へ続く |
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