東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
一石山大権現のツガ
 
幹周  3.78m      樹高  25m       標高  850m 
 
 
 一石山大権現とは、実は現在の日原鍾乳洞のことである。かつて日原が、日本独自の山岳宗教である修験道栄えし時代に、鍾乳洞はその本宮であった。そして修験道の神号として用いられる「権現」の対象が、日原の場合は鍾乳洞、つまり一石山大権現なのである。日原の森に今も多くの巨樹・巨木が残されているのも、この鍾乳洞があればこそと言えるだろう。

 本来私は、このホームページに登録する基準として、モミやツガに関しては幹周4m以上と決めていた。しかし、なかには幹周という基準だけでふるい落とすには忍びない、魅力溢れる巨木もある。このツガもその一つで、位置的にはちょうど日原鍾乳洞の真上の山にあり、それがこのツガの名前の由来である。ただ、それなりの巨木というだけであれば、歴史ある権現の名を借りて用いることはなかった。

 とにかくこのツガは美しい。日原でたくさんの巨樹・巨木を見てきたが、これほど樹形に感銘を受けた木は滅多にないほどだ。枝ぶりも根の造形も、超一級といっても過言ではない。正直なところ、この小さな2枚の写真で表現できないのがもどかしいほどである。私は盆栽については全くの素人ではあるが、恐らく盆栽家の方が見ても感嘆の声を上げられるに違いない。そしてこの只ならぬ容姿に、私は「権現(神)」を意識せずにはいられなかった。

 ツガやモミは松科に属するが、外観はどちらかといえばツガの方が松に近い。松は神の依りしろであり、正月の門松や能の舞台の正面にある鏡板に描かれた老松などは、そのことと無縁ではない。日原の山々を修験者が行を重ねていた頃、このツガはもうすでにこの地に立っていたことであろう。一石山大権現の上に立つこの秀麗のツガは、修験道が滅びた後も神の依りしろであり続けているのだと思うと、自然と手を合わせたい気持ちになった。

 
 撮影日

 上  2009年  9月22日

 下  2012年  5月13日


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