東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
鹿寄せのカツラ 
幹周  5.85m      樹高  30m       標高  1150m 
 
 
 孫惣谷林道は、奥多摩工業の石灰岩採掘のために作られたた林道であり、その登り始めはオロセ尾根を何度もUターンしながら高度を上げ、ようやく孫惣谷の左岸に沿って伸び、それは奥にある採掘場まで続いている。入口のオロセ橋にはゲートがあり、ダイヤル式の鍵が取り付けられていることから、通常は奥多摩工業関係者以外の車両の進入は出来ない。

 私の場合、かなり以前から日原森林館に出入りしていたこともあり、樹木調査の名目で孫惣谷林道への車の乗り入れを、地元の方からも大目に見てもらっていた。2000年当時、孫惣谷両岸はまだ未調査の場所が多く、私は毎週のように孫惣谷へと通い、新たな巨樹発見に夢中になっていたものだった。この鹿寄せのカツラはその中の一本で、小さな尾根と尾根の間の窪地に根付き、一際その存在感を示していた。

 ところで、このカツラの名前にある「鹿寄せ」の由来とは、私がこのカツラに初めて出会って以来、三回も続けて根元に鹿の群れがいたのである。一度だけならまだしも、三度も続くとそのことを無視するわけにもいかず、「鹿寄せのカツラ」と命名して調査書に報告することにした。「熊宿のカンバ」と同様、動物との関わりから名付けた数少ない巨樹の一つである。

 私がこのカツラで、続けて三回も鹿に出合ったことは奇蹟的ではあるが、鹿がこのカツラの根元にいたことは単なる偶然とは言えない。その三回とは冬季であり、鹿にとってはエサに困窮する時期でもあった。鹿はエサに困ると、樹木の地表に出た根をかじることがよくある。このカツラも例外ではなく、鹿が去った後にはその痕跡がしっかり残されていた。私が見てきた限りでは、カツラの根ほど鹿にかじられる樹木は他にないと思うが、甘味でもあるのだろうか。

                            2012年3月06日 一葉

 
 撮影日

 上  2001年 10月19日

 下  2012年  2月28日


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