森の神の慰霊碑


            峯小屋尾根の山桜

        幹周 3.50m   樹高 20m   標高 930m



 2000年に行われた全国巨樹・巨木林調査において、奥多摩町は891本の巨樹・巨木を世に紹介して、結果的に日本一の自治体として新聞などにも取り上げられた。私もその内のかなりの数を調査しているが、当時の私の知識では樹種の同定も曖昧なものが多く、今にして思えばなんとも頼りない調査であった。

 この峯小屋尾根の山桜も同様で、桜だとは思ったが自信はなかった。山桜の幹は、大木になればなるほど桜独特の横筋の皮目模様がなくなり、幹から伸びた枝を見なければその桜の特徴は表われない。私も枝を見て山桜だと思ったのだが、その後の調査結果で、日原には山桜の3mを超えるものがほとんど無いことに気付かされた。さらにこの巨木が山桜だとすれば、3.50mという断トツの日原一になってしまう。私の見立てが大きく揺らいだのは言うまでも無い。

 そしてその後、いつかもう一度確かめに行こう、と思いながら歳月は流れ、再びこの巨木を訪れたのは7年も後のことであった。しかしこの7年が、まさに命取りになってしまったのだ。巨木は無惨にも倒伏し、再生の余地は全くないことを思い知らされた。それでも折れた幹の様子から見ると、倒伏してそれほど時間は経っていないように思われた。それは、粉れもなく日原一の山桜の最後だったのである。

 「山桜」といっても山に自生する桜の総称で、正確には一本一本に樹種名があるが、今となってはそれがカスミザクラなのかヤマザクラなのか、はたまたオオヤマザクラであったのか知る由も無い。この山桜の生前の写真も、とうとう一枚も撮ることもなく無念さだけが募った。いつかそのうちに・・・と思っていても、いつまでも人も木も待っていてはくれないものだと痛感した山桜の姿であった。

                           2010年5月16日   一葉

              撮影日  左、下、  2007年2月24日


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