東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
ヤケゴヤの流れグリ 
 
幹周  4.40m      樹高  23m       標高  1200m 
 
 
 日原の数多い巨樹の中で、私個人が見つけた時にもっとも感動したものの一つで、見事な樹形をしたクリの樹である。幹周は驚くほどでもないが、その育った環境がこの類稀な樹形を作り出したのは疑いようももない。盆栽家も顔負けの、自然が生み出した傑作と言っても過言ではないだろう。

 巨樹の根が地表に現れて発達する場合、概ね二つの原因が考えられる。一つは、その巨樹の育った斜面が急であること。そしてもう一つは、巨樹が岩の上に育ってしまうことである。この巨樹はその両方の要素を併せ持ち、岩の上から幾本もの太い根を流れ落とし、下の養分のある土のところに潜り込ませている。巨樹にしてみれば、それは生きるための苦闘の証しなのだろうが、その根の流れは見る者にとっては美しく芸術的すらある。

 しかし、この巨樹の健康度はけして良好とは言い難い。写真左の左端2本の根はすでに枯れ、他の根にも痛みが見られる箇所がある。周りのクリの巨木を見渡しても、これがこの巨樹の成長の限界なのかもしれないが、岩の上で生き抜いた強かさを発揮してまだまだ今の姿を留めて欲しいのである。

 森のガイドをしていると、よく「樹齢はどれくらいですか?」と尋ねられる時がある。しかし、この巨樹のような厳しい環境で育った木では、おいそれと答えないようにしている。実際に正確な答えなど分からないのだが、樹齢と大きさだけが巨樹の魅力ではないことは確かである。只ならぬ異形の巨樹が畏怖の念を抱かせるのは、困難に立ち向かい乗り越えた凄絶な生き様に我々が圧倒されるからではないだろうか。

 
 撮影日

 上  2002年  4月30日

 下  2001年  3月27日


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