東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
熊宿のカンバ 
 
幹周  3.73m      樹高  13m       標高  1100m 
 
 
 「奥多摩の山にはクマが生息しています。入山される方は、鈴や携帯ラジオをご持参ください。」 JR青梅線の終点である奥多摩駅には、このように書かれた看板が入り口の柱に貼られている。これを見た登山者たちは、どれほどの関心を持って入山していくのだろうか。

 私はツキノワグマの生態に詳しいわけではないが、ツキノワグマはエサが豊富にあればで生きていける、というものではないらしい。では他に何が必要なのか?その答えは、ツキノワグマが大型の哺乳類でありながら冬眠をする習性にある。つまり、冬眠に適した場所がその森になければならないのだ。そしてその最も適した場所こそが、日原が誇る日本有数の巨樹巨木群であることを、私は身を持って知らされた経験を持っている。

 2004年11月28日、日原某所で巨樹調査をしていた私は、標高1100mほどの急斜面に一本の見事なオノオレカンバの巨木を見つけた。下の写真でご覧の通り、まるで竜が身をしならせて地面から飛び出すような迫力があり、私の興味を引くには充分であった。離れては写真を撮り、近づいては撮り、巨樹調査も兼ねているので幹周りの計測もした。後で味わうことになるとてつもない恐怖も知らずに・・・・。

 それは木の山側(高い方)に場所を変えて、最後のワンカットを撮影しようとしたまさにその時に起こった。木の根元に空いたそれほど大きくはないと思っていた洞から、唸り声がしたのと同時にツキノワグマの顔が飛び出してきたのだ。この時の私の心境を想像してみて欲しい。クマとの距離は2m。考えている余裕はなかった。気がつけば一目散に急斜面を駆け抜けていた。そして10mほど走って振り向くと、クマは意外にも木の洞から体を抜け出すのに手間取っていたのだ。やがて木の外へ出た途端、幸いにも私の逃げた方向とは反対側に、これも一目散に走り去っていった。クマは、その木の洞から抜け出したとはおもえないほどの大型で、私の肝を更に冷やしたのは言うまでも無い。

 ツキノワグマが木の洞で冬眠することは知識としては持ち合わせていたが、その出会いは衝撃的すぎた。冬眠してまだ日が浅かったということもあるだろう。しかし、日原の森にツキノワグマが生息できる最大の理由こそ、豊富な巨樹の存在にあることを確信する出来事であった。ただこれ以降、私は洞のある巨樹に近づく時には、腰が引けるほど用心深くなっている。

                          2009年11月29日   一葉
 
 撮影日

 上  2004年 11月28日

 下  2004年 11月28日


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