東京最後の聖域「にっぱら」
 巨樹・巨木
 
滝入りのイヌブナ 
 
幹周  3.51m      樹高  20m       標高  1050m 
 
 
 日原集落から、一杯水へと続く尾根をヨコスズ尾根という。その尾根の頂の一つに、滝入りの峯と呼ばれる場所がある。これは恐らく、かつて栄えた修験道にまつわる地名の名残りであろう。密教や修験道には、その修行方法として「滝行」というものがある。流れ落ちる滝に打たれ、雑念を振り払い精神統一を計ると、自然と一体化する体験を得られるという。そのような修行の場が、間違いなく日原にもあったことだろう。

 では、滝入りの峯の指す滝とは、一体どの場所のことであろうか。これはあくまでも私見ではあるが、この場所から「滝行」に適した滝に行くとすれば、カロー谷の可能性が高いのではないのだろうか。カロー谷には下から忠三の滝、経木小屋下の滝、大滝とあり、中でも大滝はいかにも修験者が滝行を行うのにふさわしい場所であろう。滝入りの峯とは、修験者がその頂から滝行に入る前に、祈祷する場であったのかもしれない。

 ところでこのイヌブナは、その滝入りの峯近くから小川谷側に尾根伝いに下ったところにある。つまり、修験者がここを通ってカロー谷へと向かった可能性もあるわけだ。そのような経緯から、このイヌブナには「滝入りのイヌブナ」と名付けてみた。離れた場所から見ると、まるでミズナラのような力強い樹形であり、孫生え(ひこばえ)もほとんど見当たらないイヌブナらしからぬ特徴がある。そして、急な斜面でその巨体を支えるために根元は隆起し、複雑怪奇な形状を呈している。

 しかし、考えてみれば木は、常になんらかの「行」を行っているのかもしれない。風雪に晒され、直射日光を浴び、雷が迫ってもその場から逃れることは出来ない。そして、芽生えた時から死ぬまで、その「行」は続いていくのだ。きっと巨樹・巨木と呼ばれる木々は、これらの「行」を耐え忍んだものだけに与えられる称号でなのであろう。

                       2012年6月02日  一葉
 
 撮影日

 上  2012年  5月14日

 下  2012年  5月14日


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